簡単に。

 

19XX年7月31日金曜日午前0時、東京都江戸川区に生まれる。子供の頃は小動物とくに昆虫を飼うのが好きで、自宅にいつもたくさんの水槽やカゴをならべ、家庭訪問のたびに女教師をおびえさせる。小学三年生のとき「ファーブル昆虫記」を読んで、大きくなったら昆虫学者になりたいと思う。その後そんなことはすっかり忘れて成長するが、20年あまり経ったある日、花と昆虫の研究を生業としている自分にふと気づく。

 

決してこうなることを計画していたわけではないし、少年の頃の夢をかなえた、というのとはちょっとちがう気がする。でもやっぱりある種の人間は、マルハナバチがアザミの花に惹かれるように、あるいはモンシロチョウがキャベツ畑に惹かれるように、結局のところ、この世界にあつまってくるのかもしれない。そうは思いませんか。思いません。そうですか。

 

おわり