私のヒーロー

 

 

唐突ですが、私はハインリッチの本を薦めます。回し者ではありません。ただのファンです。

 

・『ヤナギランの花咲く野辺で』B.ハインリッチ著

古典的名著『マルハナバチの経済学』で知られる著者が、自然に慣れ親しんだ少年時代から、大学院で生物学を志し、途中で研究分野を変更し、やがては昆虫の体温調節を中心とした多彩な研究で一躍有名になるまでの物語。著者自身による熱い思いのこもった文章と、味わいのある生物の挿絵に心打たれます。彼の展開する生物学の面白さもさることながら、大学院時代の著者が分子細胞生物学に袂を分かち思い切ってマクロ生物学への転向を決心するシーンなど名場面がたくさんあり、読み物としても秀逸です。野外生物学を志すすべての人に読んで欲しい本です。

 

・『ワタリガラスの謎』B.ハインリッチ著

私がこの本に出会ったのは、修士号を取得して博士課程後期1年に進学した年のことです。その頃、植物学から研究をスタートした私は、自分の疑問を解決するには動物の行動学についてもっと詳しく研究しなければならないということに気づきはじめたばかりでした。当時はまだ自分の中では植物学から動物学への「ハードル」は高く、本当に動物行動学に足を踏み入れるべきか、そこでやっていけるのかどうか、真剣に悩んでいました。そんなときこの本を読んで、かつて昆虫生理学者だったハインリッチ氏の動物行動学者への徹底した変身ぶりに心しびれ「やっぱり自分もポリネーターや食害昆虫の行動をしっかり見るしかない」と決意しました。そんなわけで、これは私の進路を定めてくれた個人的に思い入れのある本です。まあとにかく面白くてためになるので一読をすすめます。

 

・『熱血昆虫記』B.ハインリッチ著

この本はどちらかと言うと、上の2つにくらべると学術書的な色合いが濃いです。もちろんカール・フォン・フリッシュの「薄い方の本」をめざしたというだけあって、内容は非常にエキサイティングで、しかもわかりやすい。挿絵も実にすばらしい。ここにあげた4冊の中では、この本がもっとも私の知的好奇心を満足させる内容でした。ハインリッチ・ワールドとも言える彼の「温血昆虫学」の面白さを堪能したい人はぜひ。

 

・『人はなぜ走るのか』B.ハインリッチ著

ハインリッチ氏は41才のときにウルトラマラソンに挑戦し、みごと全米記録を打ち立てました。この本は、動物界のさまざまな「ランナー」に関するハインリッチ自身の研究、その知識にもとづいて彼がウルトラマラソンに向けておこなったあらゆるトレーニング、さらにそこから得た哲学的考察や人類進化についての新たな視点などについて、さまざまなエビソードをまじえながらわかりやすく語った力作です。私はランナーではありませんが、走ることと(論文を)書くことには多くの共通点があることや、野心や夢、信念を持つという行為そのものが、持久運動によって食料を獲得すべく進化した人類の適応形質であることなど、この本によっていろいろなことに気づかされました。単純にスポーツ読み物としても楽しめるので、堅い本が苦手な人にもおすすめします。

 

おわり